トランクルームマーケット情報

構想から半世紀を経て実現した悲願 ―小田急線の複々線効果を見る【2】


東京都・新宿と神奈川県・小田原・江ノ島などを結ぶ小田急電鉄の複々線化事業が完了した。構想から半世紀、着工から30年、総事業費3200億円の社運をかけた大事業だ。列車の大幅な増発やスピードアップが可能となった。沿線の不動産マーケットにも好影響が見込まれる複々線効果を見る。

登戸と多摩エリアの重視に見える意気込み
遠距離部における開発優位性が高まる

複々線化により、大きく5エリアで整備効果が期待できる。1つ目は登戸駅。今回のダイヤ改正に伴い、快速急行が登戸駅に停車することになった。快速急行は新百合ヶ丘駅から下北沢駅までノンストップが売りで日中と夕方。夜間に運行していた。
しかし、朝に設定しJR南武線との乗換駅で1日16万人の利用客がある同駅に止めることで、南武線沿線のみならず、東急線からの利用者も吸い上げることも見込んでいる。

2つ目は町田駅。小田急線の中で乗降客数が2番目に多い同駅はJR横浜線も利用できるとあって古くからベットタウンとして発達。しかし、人口増加に伴い、かつては団地単位でバスをチャーターし新宿方面への通勤地獄を回避したといった話も残る。いまだに一定の需要が継続しており、都心部への速達効果は大きいと言える。

構想から半世紀を経て実現した悲願 ―小田急線の複々線効果を見る

3つ目は多摩センター駅。京王電鉄も乗り入れる多摩センター駅の1日当たりの乗降客数は小田急の5万585人に対し、京王は8万7551人(2016年度)と大きく差が開いていた。ほぼ新宿駅へ直通運転している京王に対して、新百合ヶ丘駅で乗り換えを強いられていた小田急では、差が付いて当然だった。しかし今回小田急は、明らかに多摩センターを意識したダイヤを組んだ。約10分間隔で「通勤急行」を運転。多摩線の主要駅に止まる一方、本線では急行より停車駅が少なく、登戸駅も通過する。多摩エリアと新宿駅の所要時間を短くする意図がはっきり見える。小田急多摩センターから新宿間を、おおむね40分で結んでいる。ライバルとなる京王相模原線は、朝ラッシュ時の優等列車が少なく、京王多摩センターから新宿間が、おおむね50分かかる。ラッシュ時の10分差は大きく、今後、多摩ニュータウンエリアから新宿方面への通勤は、小田急優位になりそうだ。なお、京王は3月に運賃を値下げして対抗している。

4つ目は複々線区間に当たる世田谷区内。千代田線直通系統の列車を、世田谷区内の停車重視に舵を切った。これまで各停しか止まらなかった千歳船橋、祖師ヶ谷大蔵、狛江に千代田線直通の準急が新たに停車するようになった。ラッシュ時に新設した向ヶ丘遊園駅と成城学園前駅の始発列車は計20本で千代田線に直通し、通勤急行は経堂駅に停車する。帰宅時の下りでも、千代田線からの準急、各駅停車を充実させ、世田谷エリアを中心に乗り換えなしを実現した。

5つ目は江ノ島線。新宿駅への直通が増便。快速急行も乗り入れた。これまで中央林間駅で東急田園都市線に流れた利用者を取り戻す意図が見える。複々線により所要時間が短くなり、大和から新宿へ乗り換えなし52分で動けば、優位性は高まる。さらに藤沢駅始発列車を増発することで着席機会も増えそうだ。

これら、沿線住民にとって全方位的な改善とあって、不動産市場に好影響が出ることは必至。混雑緩和と速達性が増すことで沿線住宅地としてのポテンシャルは一気に高まる。沿線で発売中のマンションは当然、複々線化事業の完成を前面に打ち出し、売れ行きに変化が出ることが予想される。足元では開発動向に目立った変化はないが、町田や多摩センター、さらに奥に入ったエリアでは、開発の動機につながる可能性はある。トータルブレインの久光龍彦社長は「沿線力というのは絶えず変化する。混雑率が緩和し移動時間が短縮されるとなれば、小田急線に人気が出てくるだろう。これから価格に反映してくることは間違いない」と話す。小田急電鉄は複々線の完成で利便性が高まると同時に、駅を基点とした周辺との連携を高めたまちづくりを進める考えがある。「日本一暮らしやすい沿線にしたい」(星野晃司社長)とする言葉には、同社が長年抱えてきた決意が見え隠れする。

その他の記事

不動産マーケットで今注目されている動きとは?(不動産経済研究所 特別寄稿)

  • X
  • Instagram

ページトップへ